岩田 香奈Kana Iwata

意匠設計担当(チーフ)

一生のうちで担当できる数には限りがある。それならやりたいプロジェクトを自分で掴みに行きたい。

−岩田さんが担当しているTCG本社設計は大規模プロジェクトですが、業務に当たって感じていることはありますか。

今回のプロジェクトはプロポーザルの段階から関わり受注したものです。現在も既に1年半ほど経過し、竣工まであと2年以上あり、過去の長期プロジェクトとは違った思い入れがあります。チーム内での私の立場はメイン担当です。年次も上位であり、自分のキャリアが着実に積み上がってきたという感覚がありますね。同業であるがゆえに厳しい目で見られることがあると思っています。一方、皆さん同じ業界で普段から仕事をしていますので、検討する際は慎重ですが、納得し理解していただけるとスピードは速く、他の設計事務所の考え方を知る事ができてとても勉強になります。
プロジェクトの途中で創業者の大江さんが逝去されましたが、プロジェクト全体の検討は大江さんの生前に全て整理ができていました。今いらっしゃらないのだと思うと、とても不思議な感じがします。大江さんは設計フロアに用事がある時、よく私の席に寄ってくださり、プロジェクトの進捗等細かく報告していたことが印象に残っています。過去を含めて、一番深く大江さんと関わることができた期間かもしれません。

−大江さんと関わるとどういった部分が鍛えられると感じましたか。

プロジェクトに取り組んでいる時は、次々に決定しなければならないことがあるので、前へ前へと進めていってしまいがちです。そんな時に大江さんは、「こういったアイディアは?」「もう一歩進んだ発想は?」といつも問いかけてくださり、「その発想があったか、気づきませんでした!」といったように、見失いがちな重要なポイントに立ち返らせてくれました。所内レビューでは厳しい指摘がほとんどでしたが、反面アットホームな部分も持っていた方で、その部分を引き出したくて「もっとアドバイスください!」と飛び込んでいくことができたので、今回のプロジェクトはスムーズに進められました。

「こんなに人と関わる職業だったのか」と驚きましたが、やるしかないと思い、今日まで試行錯誤してきました。

−チームの関係性はいかがですか。以前社内で「岩田さんはこのプロジェクトに関わってから業務に対する姿勢が変わり、面倒見も良くなったので信頼している」とお聞きしました。先輩としてどのような立ち位置を意識していますか。

坂井さんをトップにチームは良い関係で進められていると思います。どう業務を割り振っていけば円滑に進むのか考えながら取り組んでいます。道筋や範囲を示した上で、メンバーに全て一度取り組んでもらい、それを私がチェックしています。今回のプロジェクトが大規模すぎて、分担せずに自分だけでこなすのは難しいと感じたことが一因です。規模がもう少し小さかったら、気づかなかったことかもしれません。

−そう感じたのは若手の時に同じ事があったからでしょうか。

若手の時は少し考え方が違っていました。私が入社した頃は、自分一人で作業をどんどん進めていく先輩たちを見て、それが当然だと思っていました。先輩たちが取り組む姿を見ながら勉強する方が早く仕事が身につくと考えていたので、一緒のプロジェクトで教えてもらうというよりは、小さな規模のプロジェクトであれば、すぐにでもメインで担当したいと思っていました。チームに後輩がいても、仕事を分担するということは選んでいなかったかもしれません。私は新卒社員として入社しましたが、それより前から在籍していた方は学生アルバイトから採用された人や中途入社の人などバックグラウンドが多様な人が多く、個性的な先輩が多かったせいかもしれないです(笑)

−プランテックは若手の頃からクライアントと関わる事が多いと思うのですが、岩田さんはいかがでしたか。

本当にその通りです。入社当時は「こんなに人と関わる職業だったのか」と驚きましたが、やるしかないと思い、今日まで試行錯誤してきました。入社1年目でスタンレー電気本社設計プロジェクトに加わり、トップの大江さんと来海さんの他に上司が4人のチーム体制でした。既に着工はしており、プランやデザインの再検討、ステアリングコミッティーの準備業務のために、大量のサンプルを用意したりしていました。ある日先方の担当者の方が「頑張って準備しているんだから会議に出てみたら?」と言ってくださり、会議の末席に同席させてもらえることになりました。その会議に出席し、先方のトップの方の意見を直接聞くことで、その場の空気や温度を肌で感じ、そのことが次回の提案資料に生かされる面が多くありました。重要な場面に立ち会う機会が若手の頃からあるのも、プランテックの特色かなと感じます。スタンレー電気様は竣工後も本当に大事に使っていただき、数年前に訪問した際は、竣工から5年経過していても新築のような綺麗さだったので、大変嬉しかったです。設計は縁や運とは切り離せないと思っていますが、特に竣工後にどう使っていただけるかは自分の能力の範疇を超えたところにあるので、改めて携わることができて幸運なプロジェクトだったなと感じました。
そういった経験が積み重なり、次第にプレゼンや客先に立つことにも躊躇しなくなりました。ある著名な経営者の方の個人邸を担当したことがあったのですが、高品質なものを提供したいがために、積極的に意見を主張した覚えがありますね。竣工が近づくにつれ、「岩田さんはどちらがいいと思う?」と意見を聞いていただけるまでになりました。もちろん上司や部下がサポートしてくれたおかげでもあります。実はこの個人邸設計は、担当を立候補しました。入社してから個人邸の設計案件がほとんどなく、この機会を逃したらできないかもしれないと思ったためです。

良い仕事をするには
メリハリのある働き方が大切

−今は社内制度で立候補が推奨されていますが、その頃からしっかり実践されていたんですね。

やはり一生のうちで担当できる数には限りがあると思います。がむしゃらに仕事ができる時期も短いので、それならやりたいプロジェクトを自分で掴みに行きたいですね。上司に訴えてアサインされるなら主張していった方がいいと思います。私達の同期も今の若手と同じように仲が良かったですが、それぞれのやり方で切磋琢磨し、良いライバル関係でした。

−今後プロジェクトでやりたいことなどありますか?また、印象的なPJはありますか。

いつかは美術館や図書館などの文化施設をやってみたいと思っていますが、今のプロジェクトで向こう2年は注力するのですぐには考えられないですね。ただ、面白そうと思ったら、また立候補してしまうとは思います。
気づきがあったプロジェクトでしたら、スタンレー電気本社です。プロジェクト関係者がとても多く、方針を見つけるのが非常に難しいプロジェクトでした。その反面、自分ではどうにもできない事案が発生した時に、多くの人達に救ってもらいました。難しいからこそ、施主・設計者・施工者関係なく、皆で一つのプロジェクトを完成させていくという団結力を感じました。竣工後に、接点が少なかった技術部署の方に「あなたはよく頑張っていたね、素敵だなと思ったよ。」と声を掛けて頂き、頑張る自分を見てくれている人が沢山いることに気づきました。若手の頃に恵まれたプロジェクトに関わることができ、その経験が今の仕事へ取り組む姿勢に生かされていると感じます。

−最後に、1つのプロジェクトに関わると拘束期間がどうしても長くなってしまうと思うのですが、女性の設計士としてライフプランをどのように考えていますか。

あまり気にしていないですね。自分がどうしてもこのプロジェクトを成し遂げたいという意思があれば、やればいいと思っていますし、拘束期間が長いからといって、私たちのような女性設計士の仕事の選択の幅が狭まるかと言われると、それは違うのではないでしょうか。まずはやりたい気持ちを優先して、周りの方の協力を仰ぎながら、働き方を模索していくしかないかなと思います。たとえ計画しても、思い通りにいくことは少ないですから。
性差に関わらず、例えば休暇を例に挙げても、休むべき日はきちんと事前に上司に申し出ます。休むために事前に調整することが大事なのであり、仕事の繁忙な時期であっても、休暇を取りリフレッシュできるような環境を自ら作るよう心がけています。良い仕事をするにはメリハリのある働き方が大切だと思っています。